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ガストロノミーは、高級料理のことではない。

  • 6 日前
  • 読了時間: 7分

Issue Vol. 2 —都市のフードシステムと「つながり」の喪失


1. 商品化される食と、人間的なつながりの喪失


食は「人権」であり、誰もが尊厳をもってアクセスできるべきものである。

しかし現代社会において、食は単なる「商品」として扱われている。 かつては、おばあちゃんや地域の人たちから、日々の暮らしの中で自然に受け継がれていた生活の知恵があった。旬の食材の美味しい食べ方、保存の仕方、食材を無駄にしない方法、そしてその日にあったことを話しながら夕飯を一緒に食べることの大切さ。 食は単なる栄養補給ではない。

人との関係を作り、文化を世代を超えて受け継ぎ、地域や季節を感じるための媒介でもある。つまり食は本来、社会全体で支えるべき、多面的で公共的な性質を持っている。

出典:Vivero-Pol(2017)をもとに、授業資料より再構成
出典:Vivero-Pol(2017)をもとに、授業資料より再構成

しかし新自由主義の下では、食は「どれだけ利益を生み出せるか」という尺度で語られるようになり、本来共有されていた知識や営みは、お金を支払ってサービスや商品として購入するものへと変化していった。質の高い食へのアクセスは、共同体や支え合いではなく、個人の選択や支払い能力に強く依存するようになった。

ここに、食の世界に携わる関係者の大きな断絶があると感じてならない。企業はこうした公共性を十分に理解できておらず、一方で公共側もまた市場の論理を十分に理解できていない。だからこそ、食はこれまで以上に、横断的かつ学際的に再設計される必要がある。 2, UPFsと都市 「超加工食品(Ultra-Processed Foods = UPFs)」をご存じだろうか。NOVA分類では、食品は「未加工・最小限加工」「料理用食材」「加工食品」「超加工食品(UPFs)」に分類される。

出典:筆者作成
出典:筆者作成

「ジャンクフード」「ファストフード」「UPFs」など、ネガティブなイメージがあることはわかっていても、私たちはその違いを明確に理解していないことが多い。

たとえば、「オーガニック」、つまり農薬や化学肥料を使わずに育てた原材料を使っていても、それを工業的に加工し、多くの添加物を加えたUPFsは存在する。

UPFsを見分ける最もシンプルな方法のひとつは「家庭のキッチンでは通常使わない添加物や成分が入っているかどうか」である。Michael Pollan は、 “Don’t eat anything your great-grandmother wouldn’t recognize as food (あなたのひいおばあちゃんが“食べ物”だと認識できないものは、食べるべきではない。)”と述べている。確かに、おばあちゃん世代でさえ、見慣れない工業的食品に対して驚くほど敏感である。「ええ!そんなもの食べるの?」「気持ち悪い!」という反応は、とてもストレートだ。もちろん、海外に留学して異国の食文化を知ること自体は素晴らしい。しかし、食文化における「進化」とは、テクノロジーが人間を最適化していくことではなく、人と人、土地と土地の文化が交わることで生まれるものではないだろうか。 「UPFs食品」という食べ物は、最初から存在していたわけではない。

たとえばハンバーガーやパンケーキのように、今では「不健康な食べ物」として語られることの多い料理も、もともとは人の手で丁寧に作られていた料理だった。UPFsは、イノベーションから始まり、「食べ物を広くアクセス可能にする」ことに役立ったことを忘れてはならない。問題なのは、それらが大企業によって、「利益を最大化する商品」として開発されている点にある。それらは「ブリス・ポイント(至福点)」に到達するよう設計されている。つまり、砂糖・脂肪・塩分の組み合わせを精密に調整し、「食べるのをやめられなくなる」状態を生み出しているのだ。これらは健康への影響だけではなく、あまりにも身近に存在していることも問題である。UPFsがスーパーの棚に広がるにつれて、伝統的な食材や郷土料理、さらには地域固有の食文化そのものが、少しずつ脇へ追いやられていく。

「簡単」と「時短」は違う。

UPFsは、「誰かを思いながら料理をする」時間をなくし、食を「安さ・速さ・大量供給」という論理へ極端に最適化していく。 また、「加工食品」と「超加工食品(Ultra-Processed Foods = UPFs)」を区別する視点は重要である。

しばしば加工食品そのものが問題視されるが、問題は単純な添加物の有無ではない。本来、人類の食文化は加工の歴史でもあった。特に江戸は、巨大な消費都市として発展したからこそ、物流や保存技術が高度化し、醤油や味噌といった加工調味料が日本の家庭の味の基盤になった。家庭では手間がかかりすぎて作ることのできない加工技術が、都市の食を支えていたのである。むしろ加工食品には、昔の人たちの保存の知恵や、職人の技術が詰まっている。

こうした問題は、単なる個人の健康問題にとどまらない。特に経済格差の大きい都市部では、貧困層ほど、安くて便利で手に入りやすいUPFsへアクセスせざるを得ない。その結果、都市では貧困と肥満が同時に存在するというパラドックスが生じている。例えば台湾では、アメリカ以上に子どもの肥満率が問題になっている。背景には、放課後の揚げ物ストリートフードや、大量の砂糖を含むスタンドドリンク文化の存在がある。 National Food Collection Day における、イタリアのフードバンク主催の食材回収ボランティアの現場は、この構造を象徴していた。寄付されるのは、パスタ、トマトソース、缶詰などの保存食品が中心であり、新鮮で質の高い食材が届くことはほとんどない。

これは何を意味するのか。

貧困層には「カロリー」は届いている。しかし、「質」や「尊厳」は届いていないのである。 世界各地では、すでに新しい取り組みも始まっている。 韓国では、「グリーン・フードゾーン」によって、学校から200メートル圏内でのジャンクフード販売が制限されている。

また、ラテンアメリカのいくつかの国々では、脂肪・糖分・塩分を多く含む食品に対して、黒い警告ラベルを表示する制度が導入されている。

とても美味しそうなフランス製ビスケットのパッケージ。しかし、その横には食品の栄養評価として最も低い「Nutri-Score E」が表示されている。
とても美味しそうなフランス製ビスケットのパッケージ。しかし、その横には食品の栄養評価として最も低い「Nutri-Score E」が表示されている。

3, 都市の再設計 現在、世界人口の約55%が都市に居住し、2050年には約68%に達するとされる。食の問題は、もはや都市の問題そのものである。 これは、「食料が足りないから生産量を増やそう」という問題ではない。世界はすでに十分な食料を生産している。問題は、誰が、どのような質の食に、どのような形でアクセスできるのかという「食へのアクセス」の問題である。 かつて都市は、周辺農村と一体となり、食の生産と供給に責任を持っていた。都市は、単なる消費地ではなかった。食を維持し、循環させる主体でもあった。しかし現在、生産と消費は地理的にも制度的にも切り離されている。生産された食は遠くへ輸出され、都市の人々は工場で大量生産された食品を消費している。都市は「食を管理する主体」から、「消費するだけの空間」へと変化した。 現代都市において、人々はかつてないほど多くの「食の選択肢」を手にしている。24時間いつでも食べ物を買うことができ、デリバリーサービスも拡大し続けている。しかし、今夜何を食べればいいのかわからない。 また、多くの人は、自分が食べているものがどこから来たのか、どのように運ばれてきたのか、そして捨てられたあとどこへ行くのかをほとんど知らない。

食材そのものに触れる機会は少なくなった。料理にかける時間は減り、あるいは料理そのものが生活から消えつつある。 つまり都市は、人々を「消費者」にはしたが、「食べる主体」にはしてこなかった。 本来、食のシステムは循環していた。

生産 → 消費 → 廃棄 → 土へ → 再生産。都市と農村は接続され、廃棄物も資源として扱われていた。しかし現代のフードシステムは、生産 → 流通 → 消費 → 廃棄という一方向的な構造である。ここで重要なのは、フードロスは単なる「無駄」ではなく、循環が断ち切られたことによる構造的帰結だということである。


だからこそ、都市の食環境は再設計されなければならない。都市を単なる消費空間ではなく、関係性と責任を育む市民的空間へと転換する必要がある。つまり都市は、単なる消費点ではなく、一方向化した食の流れを再び循環へと接続するハブとして再設計される必要がある。

廃棄を再資源化へ。消費を関係性の再構築へ。調達を地域との再接続へ。

そのためには、フードマーケット、コミュニティキッチン、パブリックダイニング、学校給食、社員食堂などといった、集団的な食の場が重要になる。共に食べることを通じて、人々は受動的な消費者から、食のシステムに積極的に関わる「食の市民」へと変化していく。そして必要なのは、食を商品から共有財へと再定義することである。


Movimento Metropolitanoは、すべての人に、手の届く価格で質の高い食事を届けることを目指している。しかしそれは、単なる「食べ物を売る場所」ではない。

そこでは、「現代都市において、“善く食べる”とはどういうことなのか?」というより大きな問いが投げかけられている。

食を通じて、人と人、人と地域を再びつなぎ直す。そのための都市の暮らしを支えるインフラなのである。



参考文献

  • Sage, Colin L. (a cura di), A Research Agenda for Food Systems. Edward Elgar Publishing, 2020.

  • van Tulleken, Chris, Ultra-Processed People: Why Do We All Eat Stuff That Isn’t Food… and Why Can’t We Stop? Cornerstone Press, 2023.

  • Michael Pollan, Food Rules: An Eater’s Manual. Penguin Books, 2009.

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