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なぜ今、私たちは再び「酸味」を求めているのか。

  • 3 日前
  • 読了時間: 6分

LOST IN TRANSLATION: LIFE OF A JAPANESE GIRL IN ITALY


菌の世界は、ある意味とてもシンプルだ。

微生物もまた、私たちと同じように「食べて」いる。糖を食べて、身体を動かすためのエネルギーへ変換する。そして私たち人間は、その代謝の副産物を食べているのである。イタリアで暮らし始めてから、私はそんな微生物の世界を以前より強く意識するようになった。


乳酸菌。ミルクに含まれる乳糖を食べて、乳酸をつくる。得意技は凝固で、牛乳のタンパク質を、自分の作った酸の力でキュッと固めること。

ある日、エクアドル出身のクラスメイトに、スーパーで売っている牛乳と少量のヨーグルトから簡単にヨーグルトを増やせると教わった。しかも彼女は、牛乳やヤギミルク、ギリシャヨーグルトを組み合わせて、自分好みの味にしているらしい。

一見簡単そうだったので、私もやってみた。しかし見事に失敗した。原因は、牛乳を温めすぎてしまったことだった。彼女は「鍋に指を入れても何も感じないくらい」、つまり人肌程度が理想だと言っていたのに、その時の私は菌が活動できないほど高温にしてしまっていたのである。その結果、乳酸菌はほとんど働かず、牛乳は十分に酸性化しなかった。できあがったのは、なんだかねばっととろ〜っとした、飲むヨーグルト手前のような液体だった。酸味もほんの少ししかない。ヨーグルトの乳酸菌は、私たちと同じくらいの体温で生きているのだと知った瞬間だった。


しかし、その失敗によって逆に理解できたこともあった。友人に話すと、「それ、バターミルク代わりに使えるから捨てちゃだめだよ!」と言われたのである。

こうした乳酸発酵ミルクは、「cultured milk」と呼ばれる。販売されているものは、私のように偶然できたものではなく、温度、塩分、酸性度、時間を調整しながら、「どの微生物を勝たせるか」を人間が制御している。

私はそのミルクを、バナナパンケーキやフライドチキンに使ってみた。すると、生地や肉が驚くほど柔らかくなった。さらに、水分を切るとラブネのようになり、副産物のホエイを再加熱すると、表面に浮かんだタンパク質はまるでリコッタのようになった。すべてが繋がっていた。

さらに、パルミジャーノ・レッジャーノの工場見学では、チーズ作りもまた「乳酸菌のバトンタッチ」で成り立っていることを知った。前日のミルクを一晩休ませて脂肪分を分離し、翌朝の新鮮なミルクと合わせる。そして前日に出たホエイは、翌日のスターターとして再利用される。つまり、チーズとは、日をまたいで微生物を受け継いでいく行為なのだ。 同じことは、数年前から手作りトレンドが見られるサワードウにも言える。

小麦粉と水と塩だけから作られる天然酵母のパンには、野生酵母と乳酸菌という二つの微生物が共存している。野生酵母は糖を食べてガスを生み、パンを膨らませる。一方、乳酸菌は酸を生み出し、独特の酸味や香りをつくる。長い間、パンは「均一性」を目指してきた。特に日本でもコンビニやスーパーに菓子パンが豊富に並んでいるが、これらは砂糖、バター、工業イーストに加え、いつでも同じ味、同じ柔らかさ、同じ品質を保てるよう添加物が入っている。 しかし今、人々は再びサワードウへ戻り始めている。

なぜ今、私たちは再び「酸味」を求めているのか。

かつて酸味は、腐敗の手前を意味していた。食べ物が危険になり始めているサインだったから、人間は本能的にそれを避けてきた。しかし今、その意味は反転している。酸味は、「自然」「本物」「腸活」「職人技」の象徴になった。発酵や腸内細菌への関心が高まる中で、かつて危険の印だったものが、むしろ「生きている証」として求められるようになったのである。 ブラに来てから、サワードウ歴の長い先輩がたくさんできた。

彼女たちは、くるみ、葡萄とレモン、コーヒー、ハーブとガーリックなど、さまざまなフレーバーのサワードウを焼いてピクニックに持ってきたり、捨て種でフォカッチャやパンケーキを作ったりしている。また、初心者にはスーパーで買える manitoba 粉が安定していると言いながらも、これらの多くがカナダ産であるため、近くの製粉所までオーガニック小麦を買いに行き、全粒粉やライ麦を好きなように混ぜている。

先日、毎週欠かさずサワードウを焼いているというイスラエル出身の友人に捏ね方を習った後、パンディナーをした時の様子。パンに合うタヒニやびわジャムなどのペーストを作るメゼ(小皿)方式が楽しい。
先日、毎週欠かさずサワードウを焼いているというイスラエル出身の友人に捏ね方を習った後、パンディナーをした時の様子。パンに合うタヒニやびわジャムなどのペーストを作るメゼ(小皿)方式が楽しい。

私も作ってみた。まだうまく安定して焼くことはできない。特に私のアパートのキッチンは窓が大きく、室温が上がりやすい。すると過発酵になって、生地がだれてしまう。先輩や本のレシピ通りにやっても、作る環境や、その日の天気によってさえ調整が必要になる。そこが難しくて、面白い。サワードウ作りには、手間というより「待つ時間」が必要だ。発酵を待つ。膨らむのを待つ。生地が落ち着くのを待つ。

そして、やはり作ったパンは、時間とともにすぐに硬くなる。けれど、ずっと店頭に並んでいても柔らかいままのパンの方が、むしろ不自然なのかもしれないとも思うようになった。だからイタリアをはじめとしたパン文化圏には、「硬くなったパンをどう美味しく食べるか」という知恵がたくさん残っているのだなと気がついた。

ただ、一つだけ言えることがある。

手作りのサワードウは、どうやっても美味しい。焼きたてを切って、溶けたバターと一緒に食べてもいい。しっかり冷ましてからトーストし、ジャムをのせてもいい。水と小麦粉とスターターと塩。たったそれだけなのに、驚くほど深い味がする。こんなにシンプルに美味しさを味わえるなら、パンは自分で焼いた方がいいのかもしれない、と最近よく思う。

始めた焼いたサワードウ
始めた焼いたサワードウ

人間はずっと、「微生物を生かしながら食べてきた」のだと思う。でも、完全に支配することはできないから、毎日調整し、望ましい状態まで待つ必要がある。

乳酸菌を扱うということは、均一で死んでしまった味を再現することではなく、「生き物と付き合う食」なのだと気がついた。 私は、自分で焼いたサワードウを、以前食べて感動したブラのパン屋へ持っていった。店主は大学でサワードウのワークショップを開き、生徒たちにスターターを分けてくれていた。イタリアでも、天然発酵種は「lievito madre(母なる酵母)」と呼ばれ、長い伝統を持っている。私が焼いたパンも、そのスターターから生まれたものだった。 すると彼は、「明日朝5時半に来たら、パンの作り方を教えよう」と言った。 次回は、イタリアのパン屋で見習いをする中で気がついたことを、連載としてお届けしたいと思う。 私たちの旅をフォローしてください:@movimento.metropolitano

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