Case 1: 肌の炎症・スキンケアと食事
Questions I Never Thought to Ask
イタリアで暮らす中で、日々の生活や身体の不調をきっかけに、「なんでこれを習わないんだろう?」「知らないのって私だけ?」と思うことが何度もあった。もちろん、学校で習ったのに私が忘れているだけかもしれない。自分で調べ、試しながら、少しずつ自分の身体や暮らしを知っていく。自分のことが分かれば、きっと誰かのこともケアできるようになるのだと思う。
このシリーズでは、日常の基本的な知識からイタリア暮らしのちょっとした工夫まで、そうして学んだことをシェアしたい。
8月、イタリアの別の街でインターンをしていたとき、肌が荒れてしまった。新しく買った香料入りの日焼け止めがきっかけだったのかもしれない。その後も旅行中に日差しを浴び続け、戻ってからは何とかしたくてビタミンC入りのパックを朝晩使ったけれど、かえって荒れてしまった。結局、新しい製品を重ねるのをやめ、刺激を感じにくい製品で保湿し、帽子や日傘で日差しを避けるようにした。私に必要だったのは、足し算よりも引き算のスキンケアだった。
肌に塗るものを減らす一方で、毎日の食事も気になり始めた。食事だけで炎症を治せるわけではないけれど、必要な栄養や水分をとって、身体を内側から支えることはできると思った。
でも、「食生活を整えよう」と思うことと、実際にできることの間には、案外いろいろな制限があった。 4人で暮らす家のキッチンは共用で、冷蔵庫で使えるのは一段分。日本とは手に入る食材も違う。まずは身体に必要なものを知り、今の暮らしでできることを考えてみることにした。
身体を支える、補習4科目
① 炭水化物:パンも蜂蜜もきのこも、炭水化物?
人間の歴史には、いかに「糖分」を手に入れてきたか、という面もあると思う。日本では米が食事の中心になったが、土地によっては里芋や山芋など、身近に採れるものからもエネルギーを得てきた。

炭水化物には、糖類、でんぷん、食物繊維などがある。
糖類の一つであるブドウ糖(グルコース)は、身体や頭を働かせる大切な燃料だ。炭水化物は、単に「太るから避けたいもの」ではなく、日々の活動を支えるものでもある。ブドウ糖がたくさんつながったものが、米やパン、じゃがいもに多いでんぷん。食物繊維にもブドウ糖からできているものがあるけれど、つながり方が違うため、人間の消化酵素では分解できない。同じ材料でも、身体の中での扱いが変わるのだ。一方、普段私たちが「砂糖」と呼ぶものは、ブドウ糖と、果物などにも含まれる果糖が一つずつつながってできている。
食べると、でんぷんはブドウ糖に、砂糖はブドウ糖と果糖に分解され、吸収される。血液中のブドウ糖の濃度が「血糖値」だ。食後にはインスリンが分泌され、細胞がブドウ糖を取り込むのを助ける。つまり、砂糖だけでなく、パンや米を食べた後も血糖値は上がる。その上がり方は、食べる量や組み合わせによっても変わる。私の好きな白パンにもでんぷんがあり、菓子パンなら砂糖も加わってダブルパンチだ。甘くないものからも、私たちは糖をとっていたのだ。
ここまで調べて驚いたのは、蜂蜜もきのこも「炭水化物を含む」と言えることだ。蜂蜜は糖を多く含む。一方、きのこは水分が多く、食物繊維も含む。同じ言葉で表せても、量も中身も、食事の中での役割も違う。説明は分かったけれど、蜂蜜ときのこに同じ言葉を使えることは、今もなんだかしっくりきていない。笑
② たんぱく質:魚を買いにくい街で、何を食べよう?
人間の身体も食べ物も、組織の構造を支えるのはタンパク質だ。
そんなたんぱく質は、アミノ酸がたくさんつながってできている。食べると、身体はそれを分解して吸収し、筋肉や皮膚、髪の毛などをつくる材料にする。
海がないブラの町では、なかなか新鮮で安価な魚を日常的に買いにくい。私が普段の買い物で頼りにしているのは、卵、水煮のツナ缶、白いんげん豆、ヨーグルトや牛乳だ。豆腐も、アジアンマーケットなどで手に入るときには取り入れたい。
イタリア暮らしでは、生ハムやサラミなどの美味しい加工肉を日々食べられる。たんぱく質はとれるし嬉しいけれど、塩分や脂質も多いので、毎日大量に食べるものにはしたくない。チーズも、種類と量を考えて使いたい。リコッタやカッテージチーズを食事に取り入れたり、塩気の強いフェタチーズをサラダや豆料理に少し崩して加えたりする。フェタなら、味つけも兼ねられる。まずは、パンだけ、パスタだけで終わらせず、卵や豆などを一緒に食べる。 今の暮らしでも、そこからなら始められそうだ。
③ 野菜の食べ方
肌が荒れてから、野菜を食べなくちゃと思って、毎日のようにサラダを食べていた。でも、無性に温かい煮物やトマトソースが恋しくなる。お腹も冷える気がするし、サラダだけでいっぱいになって、パンや卵を食べそびれることもあった。そもそも、野菜は生で食べる方がいいのだろうか。
調べてみると、ビタミンCは水に溶けやすく、熱にも弱いので、長く茹でると減りやすい。でも私は、「パプリカは炒めた方がいい」と読んで、ずっと炒めて食べていた。生で食べるべきだったの?どうやら、そう単純でもない。パプリカにはビタミンCだけでなく、カロテノイドという色素の仲間も含まれている。一つの栄養素だけを見て、調理法を決めることはできないのだ。ニンジンやカボチャのβカロテン、トマトのリコピンもカロテノイドの仲間で、切ったり加熱したりすることで、身体が利用しやすくなる場合がある。油と一緒に食べることも、その吸収を助ける。βカロテンは身体の中でビタミンAに変わり、皮膚などの細胞が正常に働くのを支える。
トマトなら、オリーブオイルでマリネにしても、温かいトマトソースにしてもいい。ニンジンも、生のサラダだけでなく、にんじんしりしりにできる。卵やツナも一緒に食べられるし、温かい料理が恋しいときには、そちらの方が嬉しい。ビタミンCは、キウイや柑橘、いちごなど、そのまま食べられる果物からもとれる。
ただ、栄養を知っても、食材を生活に取り入れるのは別の話だ。 4人でシェアする小さなキッチンでは、葉野菜を洗って水気を切るだけでも面倒に感じる。スーパーの袋入りのカットサラダも、冷蔵庫に置いているうちにすぐ変色する。私が使える冷蔵庫は一段分で、冷凍庫にも作り置きをいくつも並べる余裕はない。
大きなカボチャを買って切るところまでは、正直やる気になれない。でも、同じβカロテンを含むニンジンなら一本から買える。カボチャも、カット済みや冷凍があるか探してみようと思う。冷凍のブロッコリーやほうれん草を一袋置いておけば、使う分だけ出せる。卵と合わせてフリッタータにすることも、パスタソースやスープに加えることもできる。冷凍野菜は、忙しいから仕方なく使うものだと思っていたけれど、私の暮らしでは使いやすい選択肢になる。生野菜にこだわらなくてもいいと分かっただけで、野菜を食べるハードルが少し下がった。
④ 脂質:何から、どれくらいとっている?
調べていて意外だったのは、肌荒れのときに保湿成分として気にしていたグリセリンが、ここでも出てきたことだ。食用油やバターの主成分は、グリセリンに脂肪酸が3本つながったものらしい。グリセリン自体がオイルではないけれど、スキンケアで見ていた名前が、食事の話にもつながった。脂質は、細胞膜の材料になり、脂溶性ビタミンの吸収も助ける。身体に必要だけれど、同じ重さなら炭水化物やたんぱく質の約2倍のエネルギーになるので、量にはくれぐれも気をつけたいところだ。
イタリアで料理をしていると、オリーブオイルをよく使う。でも、日本の実家にお土産で持って帰ると、案外出番がない。家では炒め物に菜種油を使い、香りを足したいときにごま油を使っていた。同じ油でも、それを使う料理がなければ、台所に定着しないのだと思った。
油脂に含まれる脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸は、とりすぎると血液中のLDLコレステロールを増やしやすい。そのため、バターや肉の脂身などの一部を、オリーブオイルや菜種油、魚、ナッツなどに置き換えることが勧められている。地中海料理のイメージから、「オリーブオイルは身体にいい」と聞くけれど、たくさんかけてもいいわけではない。サラダやパンに瓶から直接回しかけると、使った量が分からなくなる。大さじ2杯なら、約220kcal!私はまずスプーンに出して、量を見てみることにした。大好きなタヒニも、少しのつもりで案外すごいカロリーなことがある。
一方、不飽和脂肪酸には、身体でつくれず、食事からとる必要のある必須脂肪酸もある。オメガ6のリノール酸と、オメガ3のαリノレン酸だ。αリノレン酸は、えごま油や亜麻仁油、くるみにも含まれている。サラダの仕上げにこうした油を使ったり、ヨーグルトにくるみを加えたりすれば、取り入れやすい。ほかにも、サラダにごまを振る、アボカドをパンにのせるなど、脂質をとる方法はいろいろある。最近は、こうした食材をサラダに加えるのにハマっている。
青魚に含まれるDHAやEPAも、オメガ3脂肪酸の仲間だ。αリノレン酸から身体でつくれる量は少ないので、魚から直接とることにも意味がある。ピエモンテでは新鮮で手頃な魚を買いにくいけれど、スーパーのサバやイワシの缶詰なら、サラダやパスタに加えられそうだ。
農水省のデータでは、油脂類の1人当たり年間供給量は、1965年度から2025年度にかけて約2倍になっている。思い返すと、祖父母の食卓には、私ほど油やバターが登場しない。私はサラダにオリーブオイルをかけ、チーズやサラミも好きなように食べている。洋風の食事が身近になって、油脂をとる場面も増えたのかもしれない。脂質は減らせばいいものだと思っていたけれど、まずは、自分が何から、どれくらいとっているのかを知ることから始めたい。
生活を整える、補習3科目
⑤ 食物繊維:何からとれる?
イタリアのスーパーで、食物繊維を含む食べ物を探してみると、オーツ、ひよこ豆やレンズ豆、全粒粉のパンやパスタなど、いろいろな選択肢がある。アボカドにも含まれるらしい。特に、オーツから食物繊維をとれることはあまり意識していなかった。ヨーグルトにオーツとナッツを加える朝ごはんも、甘い砂糖入りのグラノーラを買う以外の選択肢になる。
日本で食べていたものを思い返すと、芋やきのこ、わかめなどの海藻もある。玉ねぎなら煮込みにも味噌汁にも入れられる。果物なら、キウイ、梨、プラムやプルーン。キウイやプルーンは、便通への効果も研究されている。プルーンには食物繊維に加えて、便に水分を引き込む働きのあるソルビトールも含まれる。
ただ、一度に食物繊維を増やすと、お腹が張ることもあるらしい。少しずつ試して、自分のお腹に合うものを知っていきたい。
⑥ 発酵食品:生きた菌が入っている?
イタリアのスーパーで買える発酵食品には、ヨーグルトやサワードウパンがある。味噌や醤油、キムチやザワークラウトも発酵食品だ。日本では味噌や醤油を毎日のように使っていたのに、こちらでは「発酵食品を食べよう」と思ってヨーグルトを選んでいるのが、少し面白い。
ただ、発酵食品なら何でも、生きた菌を食べられるわけではない。 サワードウパンは最後に焼くし、味噌や発酵野菜も、加熱や製造方法によって菌が生きているかは違う。発酵させて作ったことと、食べるときにも菌が生きていることは、別の話だった。ピクルスにも、乳酸発酵させたものと、酢に漬けたものがある。同じ「酸っぱい野菜」でも、作り方は違う。今度スーパーで瓶を手に取ったら、原材料や作り方を見てみたい。
さらに、よく聞く「プロバイオティクス」は、十分な量をとったときに、健康に役立つことが確認されている生きた微生物を指す言葉だった。ヨーグルトに「乳酸菌入り」と書いてあっても、それだけで「私の便秘に効く」とは言えない。どの菌に、どんな効果が確認されているのかまで見る必要があるのだ。
⑦ 水分・電解質:身体の中で、電気が流れている?
「電解質を補給する」という言葉を見て、そもそも電解質って何だろうと思った。身体の中の水分には、ナトリウムやカリウムなどのミネラルが、電気を帯びた「イオン」として溶けている。身体の話では、これらを電解質と呼ぶ。身体は、こうしたイオンの動きを使って神経の電気信号をつくり、筋肉に「動いて」という指示を伝えている。身体を動かすには、燃料だけでなく、指示を伝える仕組みも必要だったのだ。 電解質は、身体の水分のバランスにも関わっている。
水を飲むことは気にしても、食事にも水分が含まれ、ミネラルも普段の食べ物からとっていることは、あまり意識していなかった。普段は水分をとり、食事もきちんと食べる。暑い日や汗をかいた日は、水分補給をいつもより意識する。長時間たくさん汗をかくときには、失われる塩分などの補給も考える。「電解質」という難しそうな言葉が出てきても、いきなり専用の飲み物を探す前に、まず毎日の食事と水分を振り返ることから始められるのだと思った。
私の台所では何ができる?
日本の五目煮や豚汁、鍋、炊き込みご飯を思い出した。一品の中に、いろいろな食材を少しずつ入れられる料理を「五目」という。 そう考えていたら、大学の学食のサラダを紹介したくなった。私が勝手に「五目サラダ」と呼んでいるものだ。一皿にいろいろな食材が入っていて、これだけで食事をするのが楽しくなる。これで5ユーロだなんて、嬉しい。一度に全部そろえなくても、一品に何か一つ足してみるという発想なら、持ち帰れそうだ。私も学食にインスパイアされて、家で古代小麦と桃のサラダを作ってみた。

肌荒れをきっかけに食事を調べ始めて、知ることで、同じスーパー、同じ予算でも選べるものが増えるのだと分かった。いつも通り過ぎていたコーナーをじっくり見たり、買ったことのない食材を手に取ったり。同じスーパーなのに、食材の世界が少し広がった。
ただ、インターネットで「身体にいい」と読んだものを、そのまま生活に取り入れられるわけではなかった。近くのスーパーで手に入る食材も、学校終わりに疲れて食べたいものも、調理にかけられる気力も、その日によって違う。少しずつ、自分の身体にも、この暮らしにも合う食べ方を見つけていきたい。
私たちの旅をフォローしてください:@movimento.metropolitano.



